(平成18年6月議会 都築香川県議会議員質問及び知事答弁)
次に、脳脊髄液減少症(これは低髄液圧症候群ともいいますけれども)に対する対策推進について質問します。
 脳脊髄液減少症とは、交通事故やスポーツ外傷など頭部や全身への強い衝撃によって、脳や脊髄の周囲を循環している脳脊髄液が硬膜から漏れ出し、その結果、脳が沈み、さまざまな障害を引き起こす病と考えられています。症状は、頭痛、腰痛、目まい、耳鳴り、動悸、倦怠感、睡眠障害、うつ症状など幅広く、日常生活もままならない患者が、全国で二十万人から三十万人に上るといわれております。
 医療機関でも認知度が低く通常の検査を行っても特に異常がみられないため、精神的なもの、気のせいと診断されることも多く、ドクターショッピング、病院ショッピングを繰り返す患者さんが殆どで、周囲からも理解されず孤独の中で苦しむ患者さんも多い。また、原因がはっきりしないため、保険会社との交渉でも不利な立場に追い込まれるケースもみられます。
治療法は、脊髄硬膜からの髄液の漏れをとめることであり、最近では髄液漏れが起きている部分に患者自身の血液を注入し、漏れを防ぐ「ブラッドパッチ療法」が有効であるといわれています。実際に患者の支援団体である「鞭打ち症患者支援協会」によりますと、全国32カ所の医療機関を対象に実施したアンケート調査では、17年5月15日までに2455人の患者にブラッドパッチ療法が行われ、73・5%が改善傾向を示し、42・4%が社会復帰を果たしたという結果が示されたそうで、特に、事故などで発症してから2年未満に治療した事例に絞ると、改善率は78・9%に達しているとのことであります。
しかし、それだけの治療実績を挙げつつも、一般の医療現場では、むち打ち症の原因としての脳脊髄液減少症とその治療法であるブラッドパッチ療法への認知度は低く、保険適用もされていないのが現状です。
先日、香川県内の病院でブラッドパッチ療法を行っている整形外科のドクターにお話をお伺いを致しました。香川県内でも多くの方が鞭打ち症の後遺症を抱えて病院にやってくる人が後を絶たないそうで、潜在的な患者さんを含めるとこの病気で悩んでいる患者さんの数は相当数に上るのではとのことでした。ドクターはこれまでブラッドパッチ療法による治療を200例ほど施してきたそうですが、約8割の患者さんで改善がみられ、中には術後の体調の好転に「大きな爽快感」を感じる患者さんも見られたそうであります。また、治療費は保険適用がないため高額になりがちで患者には大変な負担であるとのことでした。
 また、実際に私も患者さんとそのご家族にもお会いしお話をお伺い致しました。その方のケースは昨年暮れに交通事故に会い、その10日後ぐらいから頭痛やめまい、倦怠感などに悩まされ始め、自分が自分の体でないような感じで、光や高い音もひどくストレスを感じるようになっていたそうです。体の不調により職も失職し、入院しても辛抱できずに暴れたり、あげくは精神病とみなされもしたそうです。本人の苦しみを人に理解されない苦しさ、やり場のない気持ちを周りに当たるため同居している家族も地獄の日々が続いたそうで、お母さんは「周りに迷惑をかけるのであれば、いっそのこと、この息子を殺し自分も自殺したほうがいい」とまで思いつめたこともあったそうです。そして、ブラッドパッチ療法をしているドクターを紹介により出会うことができ、自分の病気が脳脊髄液減少症と診断され、2回のブラッドパッチ療法を受けた結果、現在では事故前の8割ぐらいまで体調が回復しているそうです。本人とお母さんからは「自分たちは幸いにもこの病気の治療技術をもつドクターを紹介して頂いたためここまで回復できたが、この病気に罹りながら原因も分からず、治療も受けられずに苦しんでいる多くの人がいるのではないか。行政としても患者の相談窓口の設置や「脳脊髄液減少症」の啓蒙、治療機関の啓蒙や医療機関の態勢整備ををしてほしい。少なくとも最初に行った病院の医師がこの病気の治療を出来なくても、その病気のことを示唆し医療機関を紹介してくれるだけでも多くの患者が救われると思います。」とのことでした。お母さんからは「この病気は本人またその介護をする家族でないとその苦しみは分かりません。落ち着いたら他に悩んでいる患者さんのために相談に乗るなどの協力をしたい」と言われておりました。
さて、最近になって各界の動向にも変化が表れてきております。
 この香川県においても3月議会において、全国で18都府県目となる「脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)の国に対する治療研究推進および保険適用の意見書」が全会一致で採択されましたが、地方議会では現在までに、20都府県議会で同様の意見書が採択されております。
 国も、3月8日の参院予算委員会で、公明党の渡辺孝男参議院議員の質問に答えて、脳脊髄液減少症の研究に積極的に取り組む姿勢を初めて示すとともに、報道によれば日本脳神経外科学会でも今年10月に開く総会で、脳脊髄液減少症を初めて研究テーマとして取り上げるそうであります。加えて、司法の場では従来、交通事故と脳脊髄液減少症との因果関係を認めない判決が圧倒的でしたが、05年2月、福岡地裁で因果関係を認める判決が出され、06年1月には鳥取地裁で因果関係を認める2例目の判決が出され、司法判断にも変化の兆しが見えます。
そこで、本県おける脳脊髄液減少症に対する対策についてお伺い致します。
現在、県内では脳髄液減少症の診断、治療を行うことができる病院は限られており、更には、このような病気の存在が一般的に知られていないために、患者の皆さんは、身体的症状による苦しみに加え、周囲の理解が得られず、精神的にも苦しんでいる人が数多く存在しておられると思います。他県の取り組みでは、京都府が脳髄液減少症患者の実態調査を行うということですし、新潟県では県内の病院が同症の治療をしているかを調査し、疑いのある患者に医療機関を紹介する態勢を整えるなど既に積極的な取り組みが行われております。
ついては、本県において、「脳脊髄液減少症」の認知度を高め、患者にドクターショッピングをさせないためにも同症やブラッドパッチ療法など有効な治療法について積極的な普及啓発を図るべきであります。また、こうした有効な治療については、早急に医療保険が適用されるよう、国に要望すべきであります。加えて、患者の実態調査や相談窓口の設置、検査や治療のできる医療機関の体制整備を早急に実施すべきであると思いますが知事の御所見をお伺い致します。

(知事答弁)
次は、脳脊髄液減少症対策についてであります。
脳脊髄液減少症については、まだ、病態や治療方法が確立されておらず、今後、学会等において、それらについての調査や研究が行われていくものと承知しております。
県としては、この疾患に対する研究の進捗状況や国の動向等を見極めながら、必要な対応について検討をしてまいります。
なお、この疾患については、先般、全国衛生部長会において、ブラッドパッチ療法を含め、その治療法の早期確立等を国に求めたところであります。

2006年3月23日

香川県議会において 低髄液圧症候群(髄液が漏れる病気)の治療推進を求める意見書が全会一致で採択されました

低髄液圧症候群(髄液が漏れる病気)の治療推進を求める意見書


 
低髄液圧症候群とは、交通事故、スポーツ障害、落下事故、暴力、その他頭部や全身への強い衝撃によって、脳脊髄液が慢性的に漏れ続けるという病気であり、この病気の症状は、頭痛、首や背中の痛み、腰痛、めまい、吐き気、視力低下、耳鳴り、思考力低下、うつ症状、睡眠障害、極端な全身倦怠感など様々な症状が複合的に現れる。低髄液圧症候群によって苦しんでいる患者は全国から数多く報告されている。

これまでの医療現場においては、低髄液圧症候群の原因が特定できなかったことから「怠け病」あるいは「精神的なもの」とされて周囲の理解が得られず、患者の肉体的、精神的苦痛はもとより、家族にとっても大きな苦しみであった。最近この疾患に対する治療法としてブラッドパッチ療法が開発され、その治療効果が報告されている。
 しかし、頭頚部を中心とした外傷といわゆる「むちうち損傷」は、その因果関係を証明する報告は数多くあるものの「むち打ち損傷」を原因とする低髄液圧症候群の治療法であるブラッドパッチ療法は保険適用がなされておらず、治療法の普及が遅れており全国的にもこの治療法を行う病院は少ないという実態である。
 よって、国におかれては、以上の現状を踏まえ、次の事項について適切な措置を講ずるよう強く要望する。


1    交通事故の後遺症で苦しむ患者、外傷による髄液漏れの患者の実態調査を早期に実施すること。

2    低髄液圧症候群で苦しむ患者に対する相談及び支援体制を早期に確立すること。

3低髄液圧症候群についての更なる研究の推進とブラッドパッチ療法を含めた、いわゆる「むち打ち症」の治療法を早期に確立すること。

4 ブラッドパッチ療法等に対して保険を適用すること。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出する。
 
 平成18年3月23日

香川県議会